はじめに:なぜ今「システム活用」が重要なのか
穹詠/情報セキュリティマネジメント主任私たちの生活や仕事は、もはやITシステムなしには成り立たなくなっています。スマートフォンでの買い物、会社での業務管理、役所での手続き。どれもシステムが支えています。しかし、システムを「導入する」ことと「うまく活用する」ことは全く別の話です。
2026年現在、日本では「システム活用促進」と「その評価」が大きな課題となっています。せっかく高いお金をかけてシステムを導入しても、使いこなせなければ意味がありません。この記事では、一般の方でも理解できるように、システム活用の促進方法と、その効果を正しく評価する方法について解説します。
第1章:システム活用促進とは何か


システム活用促進の基本的な考え方
「システム活用促進」とは、簡単に言えば「導入したシステムをより多くの人に、より効果的に使ってもらうための取り組み」のことです。
例えば、会社で新しい勤怠管理システムを導入したとしましょう。従来は紙のタイムカードで出勤・退勤を記録していたところ、スマートフォンやパソコンから打刻できるようになりました。しかし、従業員がこの新しいシステムの使い方を覚えず、結局紙のタイムカードと併用し続けてしまったら、システム導入の効果は半減してしまいます。
このような状況を防ぎ、システムの力を最大限に引き出すのが「システム活用促進」です。
なぜ活用促進が難しいのか
システム活用がうまくいかない理由は、主に以下の3つに分けられます。
1. 使い方がわからない 新しいシステムの操作方法を覚えることは、多くの人にとってストレスです。特に、ITに慣れていない世代の方々にとっては大きな壁となります。マニュアルを読んでも理解できない、誰に聞けばいいかわからない、という声はよく聞かれます。
2. 今までのやり方を変えたくない 人間には「現状維持バイアス」という心理があります。これは、変化を避け、慣れ親しんだ方法を続けたいという無意識の傾向です。「前のやり方のほうが早い」「わざわざ新しいことを覚える必要がない」と感じてしまうのは自然な反応です。
3. システムが使いにくい 残念ながら、導入されたシステム自体が使いにくいというケースも少なくありません。画面のデザインがわかりにくい、必要な機能にたどり着くまでに何度もクリックが必要、処理速度が遅いなど、システム側の問題も大きな障壁となります。
第2章:2026年の最新動向


デジタル庁の取り組み
日本政府は、デジタル社会の実現に向けて積極的な取り組みを進めています。デジタル庁の2025年活動報告によると、2025年7月末時点で4,892のシステムがガバメントクラウド(政府共通のクラウド基盤)を利用しており、着実にデジタル化が進んでいます。
2026年には、さらに大きな変化が予定されています。8月には「新たなマイナポータルアプリ(マイナアプリ)」のリリースが目標とされており、事業者向けサービスの入り口となる「Gビズポータル」も2026年春にアルファ版がリリース予定です。これらは、行政サービスをより使いやすくし、国民のシステム活用を促進する取り組みの一環です。
AIエージェントの登場
2026年の大きなトピックとして、「AIエージェント」の本格的な普及が挙げられます。AIエージェントとは、人間からの指示を受けて、自律的に判断しながら複数の作業を完了させるソフトウェアのことです。
従来のAI(例えばChatGPTのようなもの)は、主に「会話」や「調べ物」が中心でした。一方、AIエージェントは実際にシステムを操作し、作業を「代行」してくれます。例えば、「今週の売上レポートを作成して、関係者にメールで送っておいて」と指示すれば、データの集計からグラフ作成、メール送信まで自動で行ってくれるのです。
Capgeminiのレポートによれば、2026年までに82%の企業がAIエージェントの導入を計画しているとされています。IBMの調査でも、2026年末までに70%の企業がエージェント型AIの展開を予定しているという結果が出ています。
サプライチェーンセキュリティ評価制度
経済産業省は、2026年度末を目標に「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」の開始を目指しています。これは、企業間の取引において、サイバーセキュリティ対策の水準を「見える化」するための仕組みです。
特に中小企業にとって、どの程度のセキュリティ対策を行えばよいかの判断は難しいものです。この制度では、対策レベルを★3、★4、★5の3段階に分けて示すことで、各企業が自社に適した対策を選びやすくしています。中小企業向けの支援策として「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の新類型も創設される予定です。
第3章:システム活用を「評価」する方法


なぜ評価が必要なのか
システムを導入し、活用促進の取り組みを行っても、「本当に効果があったのか」を確認しなければ、改善のしようがありません。評価を行うことで、うまくいっている点と課題のある点が明確になり、次のアクションにつなげることができます。
経済産業省が提供する「DX推進指標」の利用者アンケートによると、9割以上の企業が「自社のDX推進状況を把握することで課題に対する気づきの機会となった」と回答しています。評価することで、初めて見えてくるものがあるのです。
KPI(重要業績評価指標)の設定
システム活用の効果を測定するためには、「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」を設定することが重要です。KPIとは、目標達成の度合いを数値で測定するための指標のことです。
例えば、勤怠管理システムの活用促進を評価する場合、以下のようなKPIが考えられます。
- システム利用率:全従業員のうち、実際にシステムを使っている人の割合
- 紙のタイムカード使用件数:システム導入後に紙を使った件数の推移
- 給与計算の処理時間:勤怠データの集計から給与計算までにかかる時間
- エラー発生率:入力ミスや計算間違いの発生頻度
KPIを設定する際のポイントは、「具体的で測定可能な指標を選ぶこと」です。「システムがうまく使われている」という曖昧な表現ではなく、「利用率90%以上」のように数値で表せる目標を立てることが大切です。
DX推進指標の活用
経済産業省とIPA(情報処理推進機構)は、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進状況を自己診断するためのツール「DX推進指標」を提供しています。
DX推進指標は、大きく2つのカテゴリーに分かれています。
1. 経営のあり方・仕組みに関する指標
- 経営ビジョンの明確化と社内共有
- 危機感の共有
- 組織体制・人材配置
- 挑戦を促す文化の醸成
2. ITシステムの構築に関する指標
- 既存システムの現状把握
- データ活用の程度
- セキュリティ対策
- IT投資の効率性
これらの項目について、6段階(レベル0〜5)で自己評価を行います。IPAに診断結果を提出すると、他社との比較が可能なベンチマークデータを入手できます。
2025年速報版のベンチマークデータによると、多くの企業がDX推進に取り組み始めていますが、レベル3(全社的に取り組んでいる)以上の企業はまだ少数派です。自社の現在地を知り、次のステップを考えるために、ぜひ活用してみてください。
第4章:効果的なシステム活用促進の実践方法


ステップ1:小さく始めて成功体験を積む
経済産業省が2025年3月に公表した「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き」では、「まずは身近なところから始め、成功体験を重ねる」ことの重要性が強調されています。
いきなり大規模なシステム刷新に取り組むのではなく、以下のような小さな取り組みから始めることが推奨されています。
- 紙の台帳をデジタル化する
- グループウェアを導入してスケジュール管理を行う
- クラウドサービスを使って勤怠管理を効率化する
これらの取り組みで効果を実感できれば、従業員のデジタル化への抵抗感が薄れ、より大きな変革にも前向きになれます。
ステップ2:使いやすい環境を整える
システムを使ってもらうためには、「使いやすい環境」を整えることが欠かせません。具体的には以下のような取り組みが効果的です。
わかりやすいマニュアルの作成 専門用語を避け、画面のスクリーンショットを多用したマニュアルを用意しましょう。動画マニュアルも有効です。
質問しやすい体制の構築 「〇〇システムで困ったら△△さんに聞く」という窓口を明確にします。Slackやチャットツールに専用のチャンネルを作るのも良い方法です。
段階的な導入 一度にすべての機能を使い始めるのではなく、基本的な機能から順番に導入していくことで、ユーザーの負担を軽減できます。
ステップ3:定期的な振り返りと改善
システム活用は「導入して終わり」ではありません。定期的に利用状況を確認し、課題があれば改善していく継続的な取り組みが必要です。
IPAは、DX推進指標を活用した診断を「年次で継続的に行うことが効果的」としています。また、より短期のサイクルで確認しておきたい指標については、マネジメントサイクルに組み込んでおくことを推奨しています。
第5章:これからの展望


AIとの協働時代の到来
2026年以降、AIエージェントの普及により、私たちの働き方は大きく変わると予想されています。UiPath株式会社は、2026年を「AIエージェント『実行』の年」と位置づけています。
注目すべきトレンドの一つが「マルチエージェントシステム」への移行です。これは、計画立案を行うAI、実際の業務を実行するAI、監視を行うAIなど、専門分野に特化した複数のAIが連携して作業を完了させる仕組みです。
IBMの調査によると、経営層は2026年末までに従業員の56%でリスキリング(新しいスキルの習得)が必要になると予測しています。AIと人間がうまく役割分担をし、AIでは強化できない業務に人的資源を集中させることが、これからの競争優位につながるとされています。
中小企業にとってのチャンス
意思決定が迅速な中小企業は、実は大企業よりもデジタル活用で大きなアドバンテージがあると言われています。経済産業省の手引きでも、「中堅・中小企業等の方が新たな取組を行いやすく、変革のスピードが速く、効果も出やすい」と記されています。
今日では、スマートフォンとインターネット接続さえあれば、財務会計、勤怠管理、在庫管理、顧客対応など、多くの業務を効率化できるツールが安価に利用できます。大規模な投資をしなくても、小さな一歩から始められるのです。
おわりに:明日からできること
システム活用促進と評価は、一見難しそうに感じるかもしれません。しかし、ポイントをおさえれば、誰でも取り組むことができます。
今日からできる3つのこと
- 現状を把握する:自社や自分の部署で使われているシステムをリストアップし、どの程度活用されているかを確認してみましょう。
- 小さな目標を立てる:「来月中に紙の申請書を1つ電子化する」など、達成可能な小さな目標を設定しましょう。
- 仲間を見つける:同じ課題意識を持つ人を見つけ、一緒に取り組むことで、モチベーションを維持しやすくなります。



デジタル技術は日々進化していますが、それを使うのは私たちです。技術に振り回されるのではなく、技術を味方につけて、より良い働き方、より良い暮らしを実現していきましょう。










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