はじめに:パスワードだけでは危ない時代
空子/情報セキュリティマネジメント担当私たちは毎日のようにパスワードを入力しています。SNSにログインするとき、ネットバンキングを使うとき、会社のシステムにアクセスするとき。しかし、パスワードをそのまま送信する方法には大きな弱点があります。もし通信の途中で誰かに盗み見られたら、あなたのパスワードはそのまま悪用されてしまうのです。
こうした問題を解決するために考え出されたのが「チャレンジレスポンス認証方式」です。名前だけ聞くと難しそうですが、実はその考え方はとてもシンプル。この記事では、専門知識がなくても理解できるように、チャレンジレスポンス認証のしくみをわかりやすく解説していきます。
そもそも「認証」って何?





認証とは、「あなたが本当にあなたであること」を確認する作業のことです。たとえば、家の鍵を使ってドアを開ける行為も一種の認証です。「この鍵を持っている人=住人である」という前提で、本人確認をしているわけですね。
インターネットの世界では、この「鍵」にあたるのがパスワードです。ところが、デジタルの世界の鍵には物理的な鍵にはない厄介な問題があります。それは「コピーが簡単にできてしまう」ということです。通信中にパスワードを盗まれると、攻撃者はそのパスワードをそのまま使って、あなたになりすますことができてしまいます。
チャレンジレスポンス認証を「忍者の合言葉」で理解する



チャレンジレスポンス認証のしくみを、忍者の世界にたとえて説明しましょう。
ある忍者の里では、門番が味方かどうかを確認するために、毎回同じ合言葉を使っていました。たとえば「山」と言われたら「川」と答える、というものです。しかし、この方法だと敵に合言葉を盗み聞きされたら終わりです。次からは敵も「川」と答えて、堂々と里に入れてしまいます。
そこで里の長は、もっと賢い方法を考えました。それが「毎回違う問題を出す」という仕組みです。
門番はやってきた忍者に、その場で考えた問題(たとえば「今日の数字は53だ。これに秘密の術を使え」)を出します。これが「チャレンジ」です。忍者は、自分と門番だけが知っている「秘密の計算方法」を使って答えを導き出し、それを門番に伝えます。これが「レスポンス」です。門番も同じ秘密の計算方法で答えを計算し、忍者の答えと一致すれば「味方だ」と認めて通します。
この方法の素晴らしい点は、たとえ敵がやり取りを盗み聞きしたとしても、次に門番が出す問題は別の数字になるため、盗んだ答えはもう使えないということです。しかも、秘密の計算方法そのものは一度も口に出していないので、盗まれる心配もありません。
技術的なしくみをもう少し詳しく





実際のチャレンジレスポンス認証は、次のような流れで動いています。
まず、ユーザーがサーバーに「ログインしたい」とリクエストを送ります。するとサーバーは、ランダムな文字列や数値を生成します。これがチャレンジです。チャレンジは毎回異なるランダムな値なので、予測することはできません。
次に、ユーザーのコンピュータは、受け取ったチャレンジと自分のパスワード(秘密の情報)を組み合わせて、「ハッシュ関数」と呼ばれる特殊な計算を行います。ハッシュ関数とは、入力されたデータを一定の長さの意味不明な文字列に変換する関数で、変換後のデータから元のデータを逆算することは事実上不可能です。この計算結果がレスポンスとなります。
サーバー側でも、同じチャレンジと、あらかじめ登録されているユーザーのパスワードを使って同じ計算を行います。そして、ユーザーから送られてきたレスポンスと、自分で計算した結果を比較します。両者が一致すれば認証成功、一致しなければ認証失敗となります。
ここで重要なのは、通信経路上を流れるのは「チャレンジ」と「レスポンス(ハッシュ値)」だけであり、パスワードそのものは一切送信されていないという点です。
どんな場面で使われているの?



チャレンジレスポンス認証は、実は私たちの身近なところで広く使われています。
たとえば、特に企業向けのWi-Fi認証(WPA2-Enterprise/WPA3-Enterprise)では、チャレンジレスポンスの考え方が取り入れられています。また、Webサイトの認証に使われる「ダイジェスト認証」もこの方式の一種です。さらに、企業のVPN接続や、ICカードを使った認証システムなどにも応用されています。
もう少し身近な例を挙げると、オンラインバンキングで使われる一部のワンタイムパスワードやトランザクション認証も、チャレンジレスポンスの発展形と言えます。銀行のシステムがその時だけ有効なコードを発行し、ユーザーがそれに基づいて応答するという仕組みは、まさにチャレンジとレスポンスの関係です。
チャレンジレスポンス認証のメリットと限界





この方式の最大のメリットは、パスワードを通信経路に流さないため、通信を盗聴されてもパスワードが漏れないという点です。また、毎回異なるチャレンジを使うため、過去の通信を記録して再利用する「リプレイ攻撃」にも強いという特徴があります。
一方で、万能というわけではありません。たとえば、サーバー自体がハッキングされてパスワードのデータベースが流出した場合には、この方式だけでは防ぎきれません。また、「中間者攻撃」と呼ばれる高度な手法(通信の間に割り込んでリアルタイムでやり取りを改ざんする攻撃)に対しては、追加の対策が必要になります。
そのため、現代のセキュリティでは、チャレンジレスポンス認証を基盤としながら、暗号化通信(TLS/SSL)や多要素認証(パスワード+スマートフォンなど)を組み合わせることで、より堅牢な仕組みを構築しています。
まとめ
チャレンジレスポンス認証方式とは、パスワードそのものを送信せず、毎回異なる「問題と答え」のやり取りによって本人確認を行う賢い仕組みです。忍者の合言葉のたとえで見たように、「秘密そのものを明かさずに、秘密を知っていることを証明する」というのがこの方式の本質です。



インターネットが生活に欠かせないものとなった今、私たちの大切な情報を守る技術の一つとして、チャレンジレスポンス認証はこれからも重要な役割を果たし続けるでしょう。パスワードを入力するたびに、その裏でこうした巧みな仕組みが働いていることを少しでも知っていれば、セキュリティに対する意識もきっと変わるはずです。










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