はじめに ― なぜ今、IT試験でAIが問われるのか
幽灯子/基本情報技術者副専門官「基本情報技術者試験」は、IT業界で働くための登竜門として知られる国家資格です。情報処理推進機構(IPA)が実施しており、2023年の改革以降は”デジタル人材の登竜門”と位置づけが広がりました。通年でCBT(コンピュータで受験する方式)として受けられるため、好きなタイミングで挑戦できます。
近年のシラバス改訂では、AI・データサイエンスに関する出題が明確に盛り込まれました。ChatGPTをはじめとする生成AIの登場もあり、IT技術者だけでなくDX推進を担うビジネスパーソンにとってもAIの基礎知識は必須になりつつあります。
この記事では、試験で問われるAI関連の知識を、専門用語をなるべく噛み砕きながら解説していきます。
試験のどこでAIが出るの?



基本情報技術者試験は「科目A」と「科目B」の2部構成です。AI関連の知識は主に以下の箇所で登場します。
科目A(四肢択一・60問・90分)では、テクノロジ系の「基礎理論」分野でAI・機械学習・ディープラーニングの用語や概念が出題されます。「この説明に当てはまるものはどれか?」という知識問題が中心です。
科目B(小問形式・20問・100分)では、「プログラミングの諸分野への適用」として、数理・データサイエンス・AIを題材にしたプログラム問題が出題されることがあります。こちらは擬似言語(テスト用の架空のプログラム言語)でアルゴリズムを読み解く力が試されます。
押さえておきたいAIキーワード7選


1. 機械学習(Machine Learning)
機械学習とは、大量のデータをコンピュータに読み込ませ、データの中からパターンやルールを自動的に見つけ出す技術です。
たとえば、過去の天気データと傘の売上データを大量に学習させると、「明日雨なら傘は何本売れそうか」をコンピュータが予測できるようになります。人間がルールを一つひとつ教えるのではなく、データから自分で学ぶところがポイントです。
試験では、「機械学習とは何か」を問う定義問題が繰り返し出題されています。
2. 教師あり学習・教師なし学習・強化学習
機械学習の学習方法は大きく3種類に分けられます。
教師あり学習は、「問題と正解のセット」を与えて学習させる方法です。たとえば、犬と猫の画像を大量に用意し、それぞれに「これは犬」「これは猫」とラベルを付けてAIに覚えさせます。試験では特にこの教師あり学習が頻出で、さらに「回帰」(数値を予測する)と「分類」(カテゴリを当てる)に分かれることも問われます。
教師なし学習は、正解を与えずにデータの中の構造やグループを見つけ出す方法です。顧客データを分析して似た購買傾向の人々を自動でグルーピングするような場合に使います。
強化学習は、AIが試行錯誤を繰り返しながら「良い結果が出る行動」を学んでいく方法です。囲碁AIがまさにこの仕組みで強くなりました。
3. ディープラーニング(深層学習)
ディープラーニングは、人間の脳の神経細胞(ニューロン)の仕組みを模倣した「ニューラルネットワーク」を何層にも重ねた技術です。
従来の機械学習では「何に注目して判断するか(特徴量)」を人間が設計する必要がありましたが、ディープラーニングではAIが自分で重要な特徴を見つけ出します。画像認識や音声認識、自然言語処理(文章の理解)など、幅広い分野で革命的な成果を上げている技術です。
試験では「ディープラーニングの特徴はどれか」という形式で出題されることが多く、正解の選択肢には「人間の脳神経回路を模倣」「ニューラルネットワーク」といったキーワードが含まれます。
4. ニューラルネットワーク
ニューラルネットワークは、脳の神経細胞のつながり方をコンピュータ上で再現したモデルです。構造は「入力層」「中間層(隠れ層)」「出力層」の3つの層からなり、データを入力層に入れると、中間層で計算が行われ、出力層から結果が出てきます。
この中間層を何層にも積み重ねたものがディープラーニングです。層が深くなるほど、より複雑なパターンを学習できるようになります。
5. 過学習(オーバーフィッティング)
過学習とは、AIが学習用のデータに適応しすぎてしまい、新しいデータにうまく対応できなくなる現象です。
わかりやすく言えば、試験勉強で過去問の答えだけを丸暗記した状態に似ています。過去問と全く同じ問題なら解けますが、少しでも問い方が変わると解けなくなります。AIでもこれと同じことが起こるのです。
対策としては「交差検証」(データを分割して学習用とテスト用に分け、性能を確認する方法)などが用いられます。
6. ファインチューニング
ファインチューニングとは、すでに大量のデータで学習済みのAIモデルに対して、特定の目的に合わせた追加データで再学習させることです。
ChatGPTのような汎用的な生成AIは、世界中のあらゆるデータから学んでいますが、それだけでは自社の業務に特化した回答はうまくできません。そこで、自社の業務データを追加で学習させて専門的な対応ができるようにする ― これがファインチューニングです。
7. 生成AI(Generative AI)
生成AIとは、テキストや画像、音声などの新しいコンテンツを生み出すAIのことです。ChatGPTのような対話型AIや、画像を生成するAIがその代表例です。
基盤モデル(Foundation Model)と呼ばれる大規模なモデルをベースに、広範囲かつ大量のデータを事前に学習し、その後の追加学習を通じて様々な用途に対応できるのが大きな特徴です。
実際の試験ではこう出る! ― 出題パターンを知ろう





基本情報技術者試験のAI関連問題は、大きく分けて2つのパターンがあります。
パターン1:用語の定義を問う問題
「AIにおけるディープラーニングの特徴はどれか」のように、4つの選択肢の中から正しい説明を選ぶ形式です。選択肢にはエキスパートシステム(ルールベースAI)やデータマイニングなど、紛らわしい用語の説明が混ぜられます。それぞれの技術の違いを理解しているかが試されます。
パターン2:AIを題材にしたプログラム問題(科目B)
データサイエンスやAIのアルゴリズム(たとえば簡単な分類や予測の処理)を擬似言語で実装したプログラムを読み、処理結果を答える形式です。AI自体の深い知識よりも、プログラムの流れを追う力が重要になります。
効率よく学ぶための3つのアドバイス
まずは用語の「意味の違い」を押さえる。 機械学習・ディープラーニング・エキスパートシステムなど、似た概念の違いを説明できるようになれば、科目Aの問題は解けるようになります。暗記ではなく「なぜ違うのか」を理解することが大切です。
過去問の反復が最も効果的。 AI関連の出題は平成30年頃から増え始めています。過去問サイト(基本情報技術者試験.comなど)で該当問題を集中的に解くと効率的です。科目Aでは過去問からの出題比率が6割ほどあるとも言われています。
身近なAIサービスと紐づけて理解する。 ChatGPTを使ったことがあれば、「これが生成AIか」「ファインチューニングとはカスタマイズのことか」と実感を持って理解できます。スマホの顔認証はディープラーニング、ネットショッピングのおすすめ機能は機械学習 ― こうした日常との接点を意識すると、記憶に残りやすくなります。
今後の動向 ― AIの出題はさらに増える


経済産業省は情報処理技術者試験全体の見直しを進めており、AI時代に即した倫理やデータマネジメントに関する出題の強化が予定されています。2024年10月からはシラバスが改訂され、AI関連の学ぶべき用語がさらに追加されました。



基本情報技術者試験は、もはやプログラマーだけのための試験ではありません。DX時代を生きるすべてのビジネスパーソンにとって、AIの基本を体系的に学ぶ絶好の機会です。この記事がその第一歩になれば幸いです。
この記事は2026年2月時点の情報に基づいています。最新のシラバスや出題範囲については、IPA(情報処理推進機構)の公式サイトをご確認ください。










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