【創作】
ホシッカ/Python主任専門官C言語先輩……ちょっとしたデータ整理のツールを作りたいだけなのに、先輩のやり方だと準備が多すぎませんか? メモリ管理して、毎回コンパイルして……もうヘトヘトです



ふふ、ごめんなさいね。私の主戦場はOSの根っこや、とにかくスピード命のハードな世界だから。マシンのパワーを極限まで引き出す分、どうしても細かい制御が必要になっちゃうのよ



でも、日常のちょっとした作業には大げさすぎます……! もっとパッと直感的に、人間が読んでわかりやすい言葉で書ける言語が欲しいんです。あまりに不便なので……私、自分で新しい言語を作っちゃっていいですか?



ええ、いいんじゃない? 近所のコンビニに行くのに、私のF1カーに乗る必要はないものね。あなたみたいに『人間の書きやすさ』に寄り添った言語が生まれるのも、現場には絶対必要なことだと思うわ。応援してるわね(?)



はい! 誰が読んでもスッキリしていて、手軽に書ける実用的な言語を開発してみせます!
このやりとりが、まさにPython誕生の歴史的な真実です。なぜPythonが作られ、どのようにして世界的な人気言語になったのか、その背景と思想を詳しく見ていきましょう。
誕生の背景:既存言語の限界と現場のジレンマ
1989年末、オランダのプログラマーであるグイド・ヴァンロッサムは、CWI(数学・情報科学センター)という研究所に所属していました。当時、研究所では新しいシステム(Amoeba)の開発が進められており、その日々の運用や管理をラクにするための「使い勝手の良いプログラミング言語」が求められていました。
当時、現場には大きく分けて2つの選択肢がありました。 1つ目は「シェルスクリプト」です。これは簡単なファイルの移動や単純作業には便利でしたが、エラーが起きたときの対処や、複雑なデータを扱うのには全く向いていませんでした。 2つ目は「C言語」です。こちらは本格的なシステム開発には必須の非常に強力な言語でしたが、日常的なちょっとしたツールを作るにはコードの記述量が多すぎました。
つまり、「手軽だけど機能が足りない言語」と「強力だけど書くのが大変な言語」しかなく、ちょうどいい中間が存在しなかったのです。
こうした状況を踏まえ、グイド・ヴァンロッサムは1989年のクリスマス休暇を利用して、「簡単なスクリプトの手軽さと、C言語の力強さの『いいとこ取り』をした言語」を目指し、自ら新しい言語の設計に着手しました。これがPythonの原点です。
教育用言語ABCからの学びと設計の工夫
グイドはPythonを開発する以前、「ABC」という教育用のプログラミング言語の開発に関わっていました。ABCは文法がシンプルで「読みやすさ」に優れており、初心者がプログラミングを学ぶのには最適な設計でした。しかし、外部の便利な仕組みと連携したり、機能を後から付け足したりすることができなかったため、実際の仕事で使うには力不足でした。
この失敗からグイドは、「読みやすいだけではダメだ。実用的で、機能をどんどん拡張できる言語でなければ普及しない」という重要な教訓を得ます。これを踏まえ、Pythonには初期段階から以下のような革新的な工夫が盛り込まれました。
- インデント(字下げ)をルール化: 従来の言語で使われていた
{ }などの記号を減らし、文章の書き出しを下げる「インデント」を文法そのものに組み込みました。これにより、誰が書いても視覚的にスッキリとした「読みやすいコード」が強制される仕組みを作りました。 - 便利なデータ型を標準装備: 複数のデータをまとめる「リスト」や、見出しと中身をセットにする「辞書」といった仕組みを最初から用意し、C言語では何行も書かなければならない複雑な処理を、直感的に短く書けるようにしました。
- 例外処理の導入: プログラムが途中でエラーを起こした際、そこで完全にフリーズするのではなく、「エラーが起きたらこう対処する」という指示を明確に書ける仕組みを取り入れました。
- モジュールシステム: 世界中の人が作った便利な追加プログラム(ライブラリ)を、ブロック遊びのように簡単に後付けできる仕組みを備えました。これにより「拡張性不足」というABC言語の弱点を完全に克服しました。
最初の公開から「実用言語」への成長
1991年2月、グイドは Python 0.9.0 を一般公開しました。この段階で、すでに高度なプログラムを組むための基本機能(クラス、例外処理、関数など)がしっかりと実装されており、単なる学習用ではなく、プロの現場でも使える完成度を備えていました。
その後、1994年にはよく使う機能がまとめられた Python 1.0 が公開され、2000年にはさらに進化した Python 2.0 がリリースされました。翌年の2001年には、言語の発展を支えるための非営利組織「Python Software Foundation (PSF)」が設立され、グイド個人のプロジェクトから、世界中のエンジニアが協力して育てるオープンな体制へと移行しました。
大改革:Python 3への移行という決断(2008〜2020)
2008年、Pythonはプログラミング言語の歴史において極めて珍しい、そして大胆な決断を下します。それが Python 3.0 のリリースです。 言語が将来もっと発展していくために、あえて「古いバージョン(Python 2系)との互換性を完全に切り捨てる」という大きな仕様変更を行いました。これは例えるなら、ゲーム機本体の仕組みを根本から変えたため、昔のゲームソフトが一切遊べなくなるようなものです。
この影響は凄まじく、世界中にある既存のシステムや追加プログラムを新バージョンへ書き直すのに、途方もない労力と時間がかかりました。結果として、2008年から2020年までの12年間にもわたり、新旧2つのPythonが世の中に混在する混乱期が続きました。しかし、コミュニティ全体の懸命な努力によりこの大移行は成功し、現在のより強力で洗練されたPythonエコシステムが完成したのです。
Pythonの設計哲学「The Zen of Python」
Pythonが世界中でこれほどまでに支持される根底には、「The Zen of Python(Pythonの禅)」と呼ばれるブレない設計哲学があります。その代表的な教えは以下の通りです。
- Beautiful is better than ugly. (醜いより美しいほうがいい)
- Explicit is better than implicit. (暗黙的より明示的なほうがいい)
- Simple is better than complex. (複雑よりシンプルなほうがいい)
- Readability counts. (可読性は重要視される)
この思想は、「プログラムはコンピュータへの命令書であると同時に、人間が読んで理解するための説明書でもあるべきだ」という方針を示しています。この「誰が書いても同じような、読みやすいコードになる」という特徴は、初心者が学びやすいだけでなく、プロの現場で他の人のコードを読み解いたり、修正したりする際の負担を劇的に下げてくれます。
現代における立ち位置と未来
現在、Pythonは「万能言語」としてあらゆるITの領域で活用されています。 シンプルな文法でありながら、後から機能を足せる強力な拡張性を持つため、NumPyやTensorFlowといった専門的なライブラリと組み合わさり、AI(人工知能)開発やデータ分析の分野では事実上の世界標準となりました。また、Webサイトの裏側を作ったり、面倒な事務作業を自動化したりする用途でも大活躍しています。
一方で、プログラミング言語には必ず「適材適所」があります。OSの根本部分や、スマートフォンのアプリ、0.001秒を争うような極限の処理速度が求められる領域では、依然としてC言語やC++、Rustといった言語が選ばれます。Pythonがすべてを支配するわけではありません。
しかし、技術の進化は止まりません。2024年にリリースされたPython 3.13では、長年の弱点であった「実行速度の遅さ」を克服するための新しい仕組み(JITコンパイラの実験的導入など)が組み込まれ始め、さらなる進化を遂げようとしています。
「C言語の力強さ」と「手軽さ」の中間を目指して生まれたPythonは、その拡張性と圧倒的な読みやすさを武器に、今後も初心者から最前線の研究者までを支え続ける言語として、長く使われていくことでしょう。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。さらに知識を深めたい方には、以下の関連記事もおすすめです。ぜひあわせてご覧くださいね。
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