はじめに:「信じない」から始まるセキュリティ
晴央/DX本部長最近ニュースやビジネスの場で「ゼロトラスト」という言葉を耳にする機会が増えていませんか?実はこれ、私たちの生活や仕事を守るセキュリティの新しい考え方なのです。
「ゼロトラスト」を日本語に訳すと「信頼ゼロ」。つまり、「誰も何も信用しない」という意味です。一見冷たい響きに聞こえますが、これが今、世界中で注目されている最新のセキュリティ対策の基本なのです。
従来のセキュリティとの違い:城壁から身分証明へ



これまでのセキュリティは、「城壁型」や「境界型」と呼ばれる方式が主流でした。イメージとしては、会社のオフィスを「お城」と考え、その周りに高い城壁(ファイアウォール)を築いて外敵(ハッカーなど)から守る、というものです。
この方式では、「城壁の内側にいる人は味方だから信用できる」「城壁の外からくる人は敵かもしれない」という前提で動いていました。
しかし、この考え方には大きな問題があります。もし誰かが城壁の中に侵入してしまったら、その後は自由に動き回れてしまうのです。実際、2014年にはeBayで1億4500万人分の個人情報が流出しましたが、これはたった3人の従業員のログイン情報が悪用されただけで起きた事件でした。
一方、ゼロトラストアーキテクチャは、「城壁の中にいる人でも、一人ひとり身分証明書を確認する」という考え方です。どこにいても、誰であっても、何かにアクセスするたびに「あなたは本当に本人ですか?」「このデータを見る権限がありますか?」と確認し続けます。
ゼロトラストの3つの基本原則





ゼロトラストアーキテクチャは、以下の3つの原則に基づいています。
1. 決して信用せず、常に検証する(Never Trust, Always Verify)
これがゼロトラストの核心です。確認するのは「人」だけではありません。 たとえ社長のIDであっても、毎回本人確認を行います。さらに、「使っているパソコンのOSは古くないか?」「ウイルス対策ソフトは稼働しているか?」といった端末の健全性もチェックします。一度ログインしたからといって、その後ずっと信用されるわけではないのです。
2. 最小権限の原則
仕事に必要な最低限の情報やシステムにしかアクセスできないようにします。たとえば、経理部の人が人事部の給与データを自由に見られる必要はありませんよね。この原則により、万が一誰かのアカウントが乗っ取られても、被害を最小限に抑えられます。
3. 侵害は起こりうると想定する
「完璧な防御は存在しない」という現実的な前提に立ちます。だからこそ、侵入されても被害が広がらないよう、システムを細かく区切って管理します。これを「マイクロセグメンテーション」と呼びます。
なぜ今、ゼロトラストが必要なのか
テレワークの普及
コロナ禍をきっかけに、自宅やカフェから仕事をする人が急増しました。従来の「オフィスの中は安全」という考え方は、もはや通用しません。自宅のWi-Fiから会社のシステムにアクセスする人が増えた今、場所に関係なくセキュリティを確保する必要があります。
クラウドサービスの拡大
以前は会社のデータは社内のサーバーに保管されていましたが、今ではGoogleドライブやMicrosoft 365など、インターネット上のサービス(クラウド)を使うのが当たり前になりました。データが「城壁の外」にあるなら、城壁で守る意味がありません。
サイバー攻撃の高度化
ハッカーの手口はどんどん巧妙になっています。近年の調査でも、 アカウントの不正利用や認証情報の盗難が、世界中のセキュリティ事故の最大の原因であり続けています。攻撃者は「城壁を壊す」のではなく、「鍵(パスワード)を盗んで堂々と正面から入る」手口に変えてきているのです。
2025〜2026年の最新動向


世界での普及
調査会社Gartnerはかつて「2026年までに世界の企業の60%以上がゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)を導入する」と予測していましたが、現在はまさにその通りになりつつあります。 従来のVPN(仮想プライベートネットワーク)からZTNAへの置き換えが進み、Google、Microsoft、Oktaといった世界的なIT企業だけでなく、一般企業でも標準的なセキュリティとして定着し始めています。
アメリカ政府の動き
アメリカは世界で最も早くゼロトラストを政府に導入した国です。2021年にバイデン大統領が発表した行政命令により、すべての連邦政府機関にゼロトラストアーキテクチャの導入が義務付けられました。
日本政府の取り組み
日本でもデジタル庁が中心となって、ゼロトラストの導入を加速させています。 2026年現在、デジタル庁が進めてきた国と地方ネットワークへの導入検証が大詰めを迎えています。 この検証結果をもとに、従来の「三層分離」と呼ばれた境界型セキュリティは段階的に廃止され、2030年に向けてより安全で利便性の高いネットワークへと生まれ変わろうとしています。
AIとの融合
最新のゼロトラストプラットフォームでは、人工知能(AI)と機械学習を活用して、異常な行動を自動で検知したり、セキュリティポリシーを最適化したりする機能が搭載されています。これにより、より素早く正確に脅威に対応できるようになっています。
私たちの生活への影響



ゼロトラストは、主に企業や政府のシステムで使われる技術ですが、私たちの生活にも関係しています。
たとえば、銀行のアプリにログインするとき、パスワードだけでなくスマホの指紋認証やSMSでの確認コードを求められることがありますよね。これも「多要素認証(MFA)」というゼロトラストの要素の一つです。
今後、行政手続きのオンライン化が進む中で、マイナンバーカードを使った本人確認なども、ゼロトラストの考え方に基づいて設計されています。
まとめ:「信じない」は「守る」ということ
ゼロトラストアーキテクチャは、「誰も信用しない」という厳しい響きとは裏腹に、実は私たちのデータやプライバシーを守るための優しい仕組みです。
テレワークやクラウドが当たり前になった現代、「城壁の中は安全」という古い考え方ではもう守り切れません。だからこそ、一人ひとりを確認し、必要な権限だけを与え、常に監視するという新しいセキュリティの形が求められているのです。



2026年現在、ゼロトラストは単なる流行語ではなく、政府や企業が真剣に取り組むべきセキュリティの基本方針となっています。今後、私たちの生活のあらゆる場面で、この考え方に基づいたシステムが増えていくでしょう。










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