はじめに
朧鋒 情報処理安全確保支援士専門官スマートフォンでのオンラインショッピング、会社のリモートワーク、銀行のインターネットバンキング…。私たちの生活は今や、インターネットなしには成り立たないほどデジタル化が進んでいます。しかし、その便利さの裏側には、個人情報の漏洩やサイバー攻撃といった「見えない危険」が潜んでいます。
そんな時代に、私たちのデジタル社会を守る専門家として注目を集めているのが「情報処理安全確保支援士」です。この記事では、この資格について一般の方にもわかりやすく解説していきます。
情報処理安全確保支援士とは?





情報処理安全確保支援士(略称:登録セキスペ)は、サイバーセキュリティ分野における日本で唯一の国家資格です。2016年10月に「情報処理の促進に関する法律」が改正されたことにより誕生しました。
簡単に言えば、「会社や組織のコンピューターシステムを、ハッカーやウイルスから守る専門家」のことです。弁護士や公認会計士、医師などと同じ「士業」に分類される、IT分野では初めての本格的な国家資格として位置づけられています。
2025年4月1日時点での登録者数は2万名程度となっており、年々増加傾向にあります。政府は2030年までにこの数を5万人に倍増させる目標を掲げています。
なぜこの資格が作られたのか?



近年、サイバー攻撃による被害は急激に増加しています。情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」によると、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)による被害、サプライチェーン攻撃、システムの脆弱性を悪用した攻撃などが、企業や組織にとって深刻な脅威となっています。
このような状況の中で、セキュリティ対策の知識と技術を持った人材が圧倒的に不足しています。日本では、IT人材の不足が叫ばれる中でも、特に情報セキュリティエンジニアの不足は深刻な社会問題となっています。
そこで国は、セキュリティ人材を育成・確保するために、この国家資格制度を創設しました。資格保有者は、企業の情報システムを守る「サイバーセキュリティの番人」として、社会基盤を支える重要な役割を担っています。
試験の概要と難易度


試験の構成
情報処理安全確保支援士試験は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施しています。これまで毎年4月と10月の年2回、筆記試験形式で行われていました。
試験は以下の3科目で構成されています:
- 科目A-1:基礎的な情報処理技術の知識を問う四択問題(30問)
- 科目A-2:セキュリティに関する専門知識を問う四択問題(25問)
- 科目B:実践的な技術力を問う記述式問題(4問中2問を選択)
難易度と合格率
この試験は、情報処理技術者試験の中で「スキルレベル4」という最高難易度に位置づけられています。合格率は例年15〜21%程度で推移しており、2025年度春期の合格率は19.0%でした。
5人に1人しか受からない難関試験ですが、それだけに合格者は高度なセキュリティ知識を持つ専門家として認められます。
受験料と申込み
受験料は7,500円(非課税)で、申込みはインターネット経由のみとなっています。
2026年からの大きな変更点 ― CBT方式への移行



2026年度から、試験方式に大きな変更があります。これまでの紙と鉛筆を使った「ペーパー方式」から、パソコンを使った「CBT方式(Computer Based Testing)」に移行することが発表されました。
CBT方式のメリット
CBT方式への移行により、受験者にとっていくつかのメリットがあります:
- スケジュールの柔軟性:年2回の固定日ではなく、一定期間内で都合の良い日時・会場を選べるようになります。
- 記述回答の効率化:長文の記述問題もキーボード入力が可能になり、手書きの負担や修正の手間がなくなります。
- 結果通知の迅速化:これまで2ヶ月近くかかっていた合格発表までの期間短縮が期待されています。
背景にあるDXの波
この変更の背景には、社会全体のデジタル変革(DX)の流れがあります。2024年度の情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験の応募者数は、2009年以降初めて70万人を突破しました。デジタル人材への需要が高まる中、より多くの人が受験しやすい環境を整備する必要性が増しているのです。
登録制度について ― 試験合格だけでは名乗れない





情報処理安全確保支援士の特徴的な点は、試験に合格しただけでは資格を名乗れないことです。合格後に所定の登録手続きを行って初めて、「情報処理安全確保支援士」として活動できます。
登録に必要な費用
登録時に必要な費用は以下の通りです:
- 登録免許税:9,000円(収入印紙)
- 登録手数料:10,700円
- 合計:約20,000円
3年ごとの更新制
登録の有効期限は3年間で、更新が必要です。更新には手数料はかかりませんが、毎年の講習受講が義務付けられています:
- オンライン講習:年1回の受講が必須(約20,000円/年)
- 実践講習:3年に1回の受講が必須(約80,000円)
つまり、3年間で約14万円の講習費用がかかる計算になります。この維持費用の高さが、試験合格者の約6割が登録をしていない理由の一つとなっています。
制度緩和により維持しやすく ― 実務経験者は講習免除も
かつては「維持費が高い(3年間で約14万円)」と言われていた登録セキスペですが、近年の制度改正により、非常に維持しやすくなっています。
実務従事者の負担軽減 セキュリティ関連の業務に従事している場合、申請を行うことで高額な「実践講習(約8万円)」の受講が免除される制度(特定講習の受講免除など)が定着しています。 これにより、実務で活躍されている方にとっては、実質的に年1回のオンライン講習費用(約2万円)のみで資格を維持できるようになりました。
以前は費用の高さから登録を見送る合格者もいましたが、現在は「実務家であれば維持費は抑えられる」環境が整っています。
資格取得のメリット



情報処理安全確保支援士を取得することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
1. 専門知識の証明
この資格は「名称独占資格」であり、登録者以外が「情報処理安全確保支援士」を名乗ることは法律で禁止されています。弁護士や公認会計士と同様に、資格を持っていることが高度な専門知識を持っている証明になります。
2. キャリアアップ・転職に有利
IT業界、特にセキュリティ分野での転職や昇進に有利になります。企業にとって、情報処理安全確保支援士を雇用することは、自社のセキュリティ体制をアピールする手段にもなります。
3. 他の資格試験での免除
情報処理安全確保支援士の資格を持っていると、以下の国家資格試験で一部免除を受けられます:
- 技術士試験(第一次試験の情報工学部門)
- 弁理士試験(論文式筆記試験の選択科目)
- 中小企業診断士(第1次試験科目の一部)
4. 信頼性の向上
登録者の情報は国のデータベースに公開されるため、クライアントや雇用主からの信頼を得やすくなります。フリーランスのエンジニアにとっては、新規案件の獲得にもつながります。
年収と将来性





情報処理安全確保支援士の平均年収は、600万円〜1,300万円程度(経験・役職・企業規模により大きく変動する)と言われています。経済産業省の調査によると、情報セキュリティスペシャリストの平均年収は約758万円で、日本人の平均年収(約410万円)やエンジニア全体の平均年収(約550万円)と比較しても、かなり高い水準にあります。
セキュリティ人材の需要は今後も拡大
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、企業のIT基盤は急速に拡大しています。クラウド、IoT、ビッグデータ、AI(人工知能)など新しい技術が次々と登場する中、それらを安全に運用するセキュリティ人材の需要は今後も高まり続けると予想されます。
将来的な必置化の可能性
現在、情報処理安全確保支援士には独占業務がなく、セキュリティ業務は資格がなくても行えます。しかし、経済産業省は「経営ガイドラインの制定」を検討しており、将来的には企業への支援士の必置要件や、保有数の報告義務などが導入される可能性があります。
どんな人におすすめ?
情報処理安全確保支援士は、以下のような方に特におすすめです
- セキュリティエンジニアを目指す方:サイバーセキュリティリスクの分析や、情報システムの安全確保を専門とする職業を目指す人
- セキュリティコンサルタントを目指す方:技術面と管理面の両方から、企業にセキュリティ対策を提案する仕事に興味がある人
- IT企業でキャリアアップしたい方:現在ITエンジニアとして働いており、セキュリティ分野へのキャリアチェンジや昇進を考えている人
- フリーランスで活躍したい方:独立して仕事を受注する際の信頼性を高めたい人
まとめ
情報処理安全確保支援士は、サイバー攻撃が増加する現代社会において、ますます重要性を増している国家資格です。
試験の難易度は高く、登録・維持にはコストがかかりますが、2026年度からのCBT方式への移行や制度緩和により、より取得しやすく、維持しやすい資格へと変わりつつあります。



デジタル化が進む社会において、私たちの個人情報や企業の機密情報を守る「サイバーセキュリティの専門家」の存在は欠かせません。IT業界でのキャリアを考えている方、セキュリティ分野に興味がある方は、ぜひこの資格の取得を検討してみてはいかがでしょうか。


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